●技術委員会 | ||||
電気・電子機器用ガラスの六価クロム、水銀、臭素系難燃剤の分析について | ||||
平成21年3月1日 ガラス産業連合会環境技術部会 |
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RoHS指令により、欧州で販売される電気・電子機器には、重金属4種類(Pb、Cr6+、Cd、Hg)、臭素系難燃剤2種類を閾値以上含有することが禁止されました。これに関連してお客様から電気・電子機器用ガラスのPb、Cr6+、Cd、Hgの分析依頼が増えました。 ガラス産業連合会環境技術部会と微量成分分析ワーキンググループで検討を重ねてきました結果、次の対応を推奨いたします。 |
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Cr6+については信頼性に欠けるので、全Crの分析値を使用することを推奨する。 | |||
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PbとCd、全Crについては、本ホームページにより公開されている分析マニュアルで分析する。 → ガラス中の微量金属成分分析方法について |
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Hg、臭素系難燃剤についてはガラス中に含まれないので、分析は不要とする。 | |||
以下、Cr6+とHg、臭素系難燃剤の分析についてご説明いたします。 |
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電気・電子機器用ガラスのCr6+分析について
ガラス中の成分を分析するには、ガラスをいったん溶液にすることが必要です。しかし、ガラスはビーカーや試験管などの化学分析用の器具に使われているように、化学的に安定な物質であるため、ガラス試料を溶液にする過程で、フッ化水素酸等で処理をすることが必要となります。このような条件下では、Cr6+は容易に還元されてCr3+に変化してしまうので、Cr6+を正確に分析することができません。 RoHS指令のCr6+の閾値は0.1重量%ですが、化学的に不安定なCr6+を正確に分析することができないため、信頼のおけるガラス中のCr6+分析値を提示することができません。クロムの分析値が必要な時には、信頼性に欠けるCr6+ではなく、全Crの分析値を使用することを推奨します。 文献調査などから、全Cr中の六価になる割合を検討しました。クロム酸化物の熱力学データ1)からは、六価になる割合は無視できるほど僅かであるという結果でした。また、酸化還元電位の面から、Fe2+がある限りCr6+は存在しない2)3)と言われているため、ガラス製品中に通常よく含まれる鉄分の影響を検討しました。ガラスの塩基度の影響4)も検討しました。こうした検討から、不純物として混入したクロムは、そのほとんどが害のない三価として存在すると考えられます。 |
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電気・電子機器用ガラスのHg分析について
Hgはガラスを溶融する温度に比べると、低温で蒸発してしまうため、ガラス中には含まれないと考えられていて、検出した事例もありません。 仮にガラス中にHgが含まれるとした場合、水銀は酸化物として存在すると思われます。しかし、酸化水銀は500℃以上で熱分解してしまい、分解生成物のHgの沸点が357℃と分解温度より低いため、500℃以上に加熱されると蒸発してしまいます。500℃をはるかに超える高温で溶融されるガラスに、水銀原料を使うことはありません。不純物として混入した場合でも、溶融工程でガラス化する前に蒸発してしまうためHgがガラス中に含有されることは考えられませんし、ガラス中からHgが検出されたこともありません。RoHS指令の閾値は0.1重量%ですが、Hgはガラス中に含まれませんから、分析は不要です。 極めて特殊な条件下では、ガラス中にHgを含む可能性も有り得るので、調査を行いましたが、ガラス中からHgを検出した事例はまだ見つかっていません。そうした事例がありましたら、ご一報いただけると幸いです。 |
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電気・電子機器用ガラスの臭素系難燃剤2種類の分析について
ガラスはご存知のとおり不燃性であり、難燃剤を使用する必要性がありません。仮に何らかの原因で原料中に臭素系難燃剤が含まれていたとしても、有機物なのでガラスの溶融工程中に分解してガラス中に含有されることはありませんし、ガラス中から臭素系難燃剤が検出されたこともありません。よって臭素系難燃剤の分析は不要です。 |
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参考文献 |
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1) |
すぐ使える熱力学 p155 耐火物技術協会 | |||
2) |
Dusdorf,W & Muller-Simon,H:Investigation into the existence of hexavalent chromium in industrial in silicate glasses, Glasstech.Ber.Glass Sci Technol.1977,70,(11) | |||
3) |
Schreiber,H.D.Peters,L.J. et al: Redox chemistry of iron-manganese and iron-chromium interactions in soda lime silicate glass melts, Glasstech.Ber.Glass Sci Technol.1976,69,(9) | |||
4) |
P.Nath & R.W.Douglas: Cr3+―Cr6+ equilibrium in binary alkali silicate glasses, Physics and Chemistry of Glasses Vol.6 No.6 December 1965 p197-202 | |||
注) |
ガラス自体の分析に関することであり、ガラスを使用した製品全体の分析に関するも のではありません。 | |||