技術委員会
 REACH規則への対応について
平成22年10月1日 
改訂平成24年5月25日
 
ガラス産業連合会 運営・技術委員会 環境技術部会
 
       
 REACH規則は2007年6月1日に発効しましたが、欧州化学物質庁(ECHA)から認可対象の高懸念物質(SVHC:Substance of Very High Concern)候補リストが順次公表されるに伴い、ガラスに関連する問い合わせが増えました。ガラス産業連合会 運営・技術委員会 環境技術部会では、REACHに関する情報収集を重ね、対応について検討してまいりましたが、見解を公表することにしました。
 なおREACHで使われる用語の「調剤(Preparation)」は「混合物(Mixture)」に修正されています。これは、分類と表示に関する基準を定める「CLP規則((EC)No 1272/2008)」において「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)」に合わせて 調剤(Preparation)ではなく混合物(Mixture)が用いられたことによります。本見解も以上のことから表記を修正しました。
 
   
1)REACH規則への登録について

(1)ガラス製品について:びんやガラス板、ガラス繊維などのガラス製品は成形品(Article)ですから登録は不要です。

(2)素材ガラスについて:(1)のガラス製品とは別に製品の元になるガラス素材についての検討をしました。以下、成形品(Article)である「ガラス製品」とは区別し、単に「ガラス」と表記した場合には「ガラス素材」として説明していきます。

 REACH規則はすべての物質(Substance)の登録を求めていますから、成形される前のガラス(素材ガラス)は物質(Substance)ですので、通常は登録対象となります。日本でガラスを溶融し、成形品(Article)を欧州へ輸出する場合は関係ありませんが、欧州のガラス業界(GAE (Glass Alliance Europe):CPIVから組織名が変更された)では、成形される前のガラスは物質(Substance)なのか、混合物(Mixture)なのかを明確にしておく必要がありました。ガラスを混合物(Mixture)とする考え方もありましたが、結果的には、『ガラスはUVCB物質(Substances of Unknown or Variable composition, Complex reaction products or Biological materials)』とされました1)
 物質(Substance)なら通常は登録必要となりますが、EU官報2)(6頁)には、ガラスは条件付きながら、登録義務を免除される物質(Substance)と記載されております。登録義務を免除されるのは、安全性が良く知られている一部の物質(Substance)などであり、危険物が免除されることはありません。化学的に安定なガラスも登録義務を免除されるので、最終的な結論としては、ガラス(素材ガラス)の登録は不要です。なお、条件部分を明確にし、登録要否確認を行う時にはREACH DOSSIER3)が参考になります。
 
 
   
2)高懸念物質(SVHC)の届出・情報伝達について

 REACH規則は、成形品(Article)中にSVHCが0.1重量%を超える濃度で含まれる場合には、その成形品(Article)を安全に使用するための情報を、使用者に伝達することを求めています。また、SVHCが年間1トンを超え、ばく露が排除できない場合には、届出が必要となります。
 しかしながら、REACH規則では、ガラスは一つの物質(Substance)であり、複数の物質(Substance)の混合物ではありません。仮に、原料としてSVHCが使われた場合であっても、個々の原料と溶融反応生成物であるガラスとは別の物質(Substance)ですから、個々の原料(SVHC)の情報伝達は必要ありませんし、届出も必要ありません。
 欧州のガラス業界(GAE)も同様の立場をとっており 「成形される前のガラスは、REACH規則では物質(Substance)とみなされる。ガラス成形品(Article)は、物質(Substance)であるガラスから製造されており、ガラスはSVHC候補リストにあげられておらず、今後も候補となることはないと考えられる。従って、ガラス成形品中のガラス部分に関する情報伝達の義務はない。」との見解1)を表明しています。

 
 
   
3)よくある問い合わせ Q&A

Q1. 欧州に鉛ガラス製品を輸出する場合、登録は必要ですか?
A1. ガラス製品は成形品(Article)ですから登録は不要です。しかし、そのガラスが、登録義務を免除されることをREACH DOSSIER3)に従って確認しておくことは必要です。
 RoHS指令との混同に、注意が必要です。RoHS指令では、鉛がどのような化学形として存在しているかは無関係で、1000ppm以下に規制されています。一方、REACH規則は、化学形や物性などで危険性が異なることを前提としており、重金属などが含有されていても、ガラス中に固化されていて危険でない場合は、登録義務を免除されます。法律によって要求事項が異なりますので、含有・不含有と危険性は区別する必要があります。

 
 
   
Q2. SVHC不含有証明書の要求があるのですが、どのように対応したら良いでしょうか?
A2. REACH規則では、ガラスそのものが一つの物質(Substance)として扱われます。複数の物質(Substance)混合物(Mixture)ではありませんので、ガラスにはSVHCの対象となっている物質(Substance)の状態では含有しないという説明をされてはいかがでしょうか。Q3の回答も参照してください。
 しかし、REACH規則の要求事項ではない特定の化合物の不含有証明書や特定原料の不使用証明書が要求されているのであれば、組成や原料配合に関することは、知的財産所有権にも関係することなので、原則としてお断りさせていただくのが適切です。

 
 
   
Q3. ホウ酸(H3BO3)と酸化ホウ素(B2O3)がSVHC(候補)リストにありますが、ガラスにホウ酸(H3BO3)と酸化ホウ素(B2O3)は含まれますか?
A3. 含まれません。ガラスの原料として、ホウ酸(H3BO3)や酸化ホウ素(B2O3)を使用することはありますが、溶融工程の初期段階で熱分解してしまいます。その分解生成物も、溶融工程中にシリカなどの他成分と不規則・複雑な化学反応しながら、ガラス網目構造の中に組み込まれてしまい、溶融反応生成物であるガラスとなります。
 原料が危険でも、生成物が安全な例として
HCl(塩酸、劇物)+ NaOH(苛性ソーダ、劇物)=NaCl(食塩、無害)+ H2O(水、無害)
があります。硼珪酸ガラスの場合も、原料の取り扱いには注意を払う必要がありますが、得られたガラスには特別な注意を払う必要はありません。

 
 
   
Q4. ガラスのMSDSに、ホウ酸(H3BO3)、酸化ホウ素(B2O3)のCAS番号が記入されている事例があります・・
A4. 残念ながら、ガラスの情報伝達が適切に行われているとは言えません。ガラスを特定するために、酸化物の組成式で表記することは、ガラス分野の技術的な慣習となっておりますが、組成酸化物単体や原料は、ガラスとは異なります。従って、原料や組成酸化物単体のCAS番号や官報公示整理番号などを多用してきた慣習は、見直す必要があります。
 しかし、ガラス製品を特殊な使い方をする場合などに、役に立つ参考情報として扱われるのであれば、適切な情報伝達と言うことができます。

 
 
   
参考資料
 
 
   
1)
Statement concerning Glass, Glass articles and the EU REACH Regulation February 2009  
 
   
2)
COMMISSION REGULATION (EC) No 987/2008  of 8 October 2008  
 
   
3)
REACH DOSSIER (Brussels,12 November 2009)  
 
   
改訂履歴
平成24年5月25日
 
   
1.
「調剤(Preparation)」の表記を「混合物(Mixture)」に修正した。  
   
2.
英語を併記した。「成形品(Article)」「物質(Substance)」「混合物(Mixture)」  
   
3.
欧州のガラス業界の組織名の変更に対応した。CPIVからGAE (Glass Alliance Europe)に変更  
   
4.
化学式を併記した。ホウ酸(H3BO3)、酸化ホウ素(B2O3  
   
5.
Q2の回答A2を一部修正した。  
   
6.
Q3,Q4に酸化ホウ素(B2O3)を追加した。  
   
7.
Q3の回答A3に塩酸、苛性ソーダ、食塩、水を追加した。  
 
   
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